第9章 tragic love②
ー翔sideー
坂本「櫻井もう上がっていいぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
閉店後の店のカウンター。
俺は洗ったグラスを棚に並べ終え、振り返った。
坂本「すまんな残業させて」
「いいえ大丈夫です」
坂本「もう皆上がったぞ。家まで送るよ」
「え?そんな…」
坂本「遠慮すんな。残業してくれたお礼だ。早く着替えて来いよ」
「は、はい!」
俺は頭を下げ、急いで身支度を調え坂本店長と一緒に店を出た。
坂本「櫻井もうちにきてもう2年以上だよな2年半?」
「はい」
坂本「もうベテランだな」
「いえ、そんな…」
帰りの車内、俺は坂本店長と他愛ない会話をしていた。
坂本「確かもうすぐ19だよな」
「はい」
坂本店長のお陰で、いつの間にか俺はボーイの中では1番の古株になっていた。
馴染みのお客様の顔や好みのお酒も覚え、頼りにされる事もある。
スタッフもいい人達ばかりで…俺はこの仕事が…この店が楽しかった。
坂本「櫻井さ…」
「はい」
坂本「そろそろホストになる気はないか?」
「え?」
突然の坂本店長の言葉に俺は驚いた。
坂本「顔馴染みのお客様には櫻井の顔覚えてもらってるし…俺がお前を見て思ったんだ。素質があるって」
「いや…でも…」
坂本「無理にとは言わない。決めるのは櫻井だから。でももしその気があるんなら…俺が一からお前を育ててやる」
「………店長…」
どう返事をしていいか分からず、俺はうつ向いた。
坂本「それに…俺は長瀬とは違う。あんな最低な事はしない。そう言う客がいれば全力でお前を守る。約束するよ」
「………」
坂本「返事は急がないから。考えてみてくれ」
「………はい…分かりました」
そして丁度いいタイミングで、昌宏さんとの愛の巣へとたどり着いた。
坂本「じゃあまた明日。松岡によろしくな」
「はい。ありがとうございます。お疲れ様でした」
坂本「お疲れ」
俺は頭を何度も下げ、赤いポルシェが消えるまで見送った。