第8章 tragic love①
松岡「翔。蕎麦出来たぞ」
「はぁい」
リビングでテレビを観ていた俺は昌宏さんに呼ばれキッチンへと移動した。
12月31日。
もうすぐ日付が変わって1月1日。
昌宏さんと出逢って3ヶ月半。
恋人になって…もうすぐ2ヶ月。
俺は毎日の様に昌宏さんのマンションに入り浸り、毎日を彼と過ごしていた。
でも…未だにキス以上の事は無い。
泊まっても…抱き合って眠るだけだった。
やっぱり…まだ子供だからそういう気になれないのかな。
初めてだよ。一緒に居て手出してこない男の人…。
松岡「翔どうした?冷めるぞ」
「あ、ごめんなさい」
慌てて蕎麦を食べ始める。
「美味しーい」
松岡「うん。ダシが上出来だな」
自分の料理の出来に満足しながら、昌宏さんも蕎麦をすすった。
「昌宏さん…何でこんなに料理上手なの?」
松岡「んー?まぁうち母子家庭だったからな。小さい頃から料理してたもんなぁ」
「そうなの?」
松岡「うん。小さい頃に親離婚してさ。北海道に居たらしいんだけど横浜に越して来てさ。あんまその頃の記憶無いんだけど…」
「じゃあ…昌宏さん兄弟は?」
松岡「いや。一人っ子だよ」
「そうなんだ…何かお兄ちゃんみたいだから弟か妹か居るのかなって…」
松岡「居ないよ。だからお前が羨ましいよ」
「そっか…ごめんね変な事聞いて」
松岡「気にすんなよ」
その時、遠くから聞こえて来た鐘の音。
日付が変わった合図。
「あ…」
松岡「お」
何気に窓に目をやると、チラチラと雪が降っていた。
「あ、雪!」
俺は思わず立ち上がり、窓辺に走っていった。
松岡「どうりで寒い筈だな…」
「………こうやって見ると…何かロマンチックだね雪って」
松岡「そうだな」
いつの間にか昌宏さんも隣に立っていた。
松岡「去年は…良い年だったな」
見上げると、昌宏さんが俺を見つめながら、肩に手を置いた。
松岡「お前に出逢えた」
「昌宏さん…」
松岡「今年も宜しく。翔」
「うん。今年も宜しく。昌宏さん」
彼の顔が近付き、唇が重なった。