第20章 THE ROSE
”私は言う 愛とは花みたい”
風間が声が似ていると言ったもう一枚のアルバムは、聴くのをやめた。
胸の奥底に埋めた物が、また出てきそうだったから。
ただ、その和訳した歌詞カードだけを眺めた。
”あなたはその種の中のひとつ”
ガオ…あなたは…
俺の想いに気づいていたのだろうか
「いや…ないな…」
彼女が見ていたもの
彼女が大事にしていたもの
そのどれもに、俺は入っていなかった。
だけどガオ…
俺は…
あなたのことが…
いつの間にか眠っていたようで、電話の呼び出し音で目が覚めた。
長い夢を見ていた気がした。
「もしもし…」
『俺。元気?』
「翼…」
長年の友人の翼だった。
『今、日本に来てるんだ。時間ある?』
「ああ…あるよ」
『…どうしたんだ?元気ないけど』
「いや…なんでもない…」
まだ、夢の中にいるようで現実感がなかった。
「なあ…翼…」
『ん?』
「人はなぜ…愛した人を忘れられないんだろうな…」
『…どうした?頭イカれたか?』
「いや…そう、かな…そうなのかも…」
ぶっと翼は噴き出した。
『そんなの決まってるじゃねえか。生きてるからだよ』
あっさりと翼は言い切った。
『生きてる限り、男ってのは愛した女のことは忘れねえんだよ』
「は…?」
『別にいいんじゃねえの?なんか悪いことあんの?』
「いや…別にもう…」
相手は死んでるんだし、想ってて悪いことなんてない。
『じゃあ、いいじゃねえか。ずーっとその女のこと、愛してればさ』
あっさりと、翼は俺のセンチメンタルをふっ飛ばした。
「ああ…そうだな。ずーっと…」
そうか…風間も…
ずっと、愛してるんだ
これから先も、ずっと
それも愛の花の種のひとつ
『おい?どうした?』
「いや…なんでもない。いつ、飲みに行く?」
『翔と和也の墓参りもしたいんだ。付き合ってくれるか?』
「……ああ。わかった」
櫻井さん…あなたも…ずっと、愛していた
長い年月を掛けて、ずっとその影を追って
そして遂に手にいれた
あなたは愛の花の種を全部…
握りしめたまま旅立った
そして俺はたったひとつを握りしめて…
まだ動くことができない
”思い出して…”