第19章 Get It While You Can
「元気だった…?」
エメラルドグリーンの湖面は、静かに波立っていた。
「参ったよ…先、越された…」
突風が吹いてきて、煽られそうになる。
「ハハ…やっぱ、甘いよね。俺…」
風は冷たい。
もうすぐ本格的な冬がやってくる。
こんな時期に観光にくるやつも居ないから、周りには誰もいない。
「いつもいつも…詰めが甘いよね…」
トレンチコートの襟を合わせて、ぎゅっと身体を丸め込む。
「もっとしっかりしてたらさぁ…死なせなかったのに…」
蒼白の顔が、目の裏に蘇る。
毎晩毎晩、その夢を見る。
真っ暗な部屋で、横たわるその姿―――
一生、忘れることなんてない
忘れられない…
「…ガオ…」
この名前が、気に入っていた。
立派な女の名前があるのに、男装してる時の自分がいいと…この名前で呼ぶことを強要された。
…多分、思い出したくなかったんだろう…
自分が…女である自分が受けた仕打ちを
そして、自分が犯した罪を
「そっちは…快適…?」
湖面はキラキラと俺を弾く。
どこに持っていけばいいのかわからない鬱憤を抱えたまま日本に帰国した。
その足でまっすぐに群馬に来た。
ここは、ガオの墓。
誰でもない、俺が決めた。
「また、来るね…」
バーカ…俊の泣き虫…
ガオの声が聞こえた気がした。