第12章 Maybe
「え…?翔が…?」
ホテルのドアの前で、俺は膝から力が抜けていくのを感じた。
ぺたりと、床に座り込んだ。
包帯を頭に巻いた翼が、はらはらと泣いている。
「急に戦闘が始まって…逃げ惑う人が大勢押し寄せてきて、はぐれてしまったんだ…」
智が俺の肩を掴む。
「翼、本当に翔なんだな?」
「ああ…東洋人って言ってたし…」
「俺は信じない」
強い口調で智が言うと、俺の肩に載せた手をぎゅうっと握った。
「行こう、翼。俺は顔を見ないと信じない」
「でも…」
「行くんだ!さぁ!連れて行けよ!」
聞いたこともない激しい口調で智が翼に詰め寄る。
「それがお前の仕事だろうが!」
胸ぐらを掴むと、どこにそんな力があるのか、翼を廊下の壁に叩きつけた。
「行くぞ…車、だせよ…」
翼が走りだすと、智は俺の腕を抱えた。
引きずられるようにして車に乗り込む。
手が、足が、膝が、身体が震える。
翔が、死んだ。