第1章 アヴェ・マリア
ひとしきり泣いて、漸く床に無造作に散らかったままの自分の服に手を伸ばした。
怠さの残る身体で袖を遠し、ズボンに足を通す。
たったそれだけの行為なのに、随分と時間がかかった。
やっとの思いで着替えを済ませ、立ち上がろうとした瞬間、グラッと世界が歪み、俺はその場に崩れた。
ふと視線をベットの上に巡らせると、封筒が目についた。
それを手に取り、封を開けた。
「…なんだコレ…」
一万円札が20枚…
「あは……あは…は…」
20万…
俺はこの金で買われた、ってことか…
この手首に色濃く残った拘束の痕跡…
全身無数に散らばる赤い痣…
身体に残る痛み…
そして何より、屈辱的な行為の前に為す統べなく砕かれた、ちっぽけなプライド…
その全ての代価がコレなんだ…
そう思ったら笑えてきた。
と、同時に一旦は枯れた筈の涙がまた溢れる。
ジーンズのポケットに封筒を捩じ込み、財布の中からなけなしの5000円を出すと、ベットの上に置いた。
「アヴェ・マリア」完