第5章 隙間
どれくらい時間が
流れたのか、
日常に過ぎていく時間のそれとは
あまりに違い過ぎて、
感覚がおかしくなりそうだった。
ただ、今俺の腕の中で目を閉じているニノが、たまらなく愛しくて、
二人の間に、
俺が作っていた小さな隙間に
温かいものが流れ込むのを
感じた。
「翔さん...」と震える声で
名前を呼ばれる度、
頭の芯が痺れていくような
そんな感覚だった。
それまでも、こんなことは
当たり前だけど、あった。
言わずもがな、その相手は
女性なわけで、
当然、それ以上の関係だった。
でも、この日の俺は
こんなことだけで、
心の底から幸せだった。
ニノの髪を掻き上げながら、
(ずっと、コイツとこうしていたい...)
そう思っていた。
やっと前に進めた二人のことを
埠頭の向こうから
オレンジ色のキリンたちが
祝福してくれているかのようだった。