第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
項垂れる南に苦笑しかできずにいると、不意に遠くから微かな音楽が聞こえた。
耳を澄ませば、どんちゃんと賑やかな音頭のようなものがする。
「南、あれって…」
「あ、そっか。今の季節ならあってて可笑しくないもんね」
目を向けた先には、暗い空を跳ね飛ばすような明るい光。
問いかけた南はそれがなんなのかすぐに理解したらしく、弾んだ声を漏らした。
「あれ、お祭りだよ。日本の夏祭り」
「夏祭り?」
そういや、資料で見たことあったっけ。
色んな出店が建ち並ぶ、日本の夏の行事だろ。
「こんな時間帯でもやってる所あるんだね」
「へー…」
じっと興味深く見ていたら、くすりと隣で笑う声。
目を向ければ、にっこりと笑う南がいた。
「夏祭り、折角だから行ってみる?」
「いいんさっ?」
思わず弾んだ声が出てしまう。
そんなオレに、南はまた楽しそうに笑った。
「…なんかちょっと感動」
「そう?」
「だって資料でしか見たことなかったもんが、目の前にあるんさ。興奮しねぇ?」
煌びやかな提灯の灯り。
鼻をくすぐる、出店から漂ってくる美味そうな食べ物の匂い。
行き交う人々は皆、日本の伝統衣装に身を包んでいて、頭にはお面。
狐や猿、おかめに鬼。
その景色はまるでオレを別世界に来たような感覚に陥らせてくれた。
国が違うなら文化も違う。
世界も違って見えて当たり前なんだけど。
日本のイメージってどうにもあの千年伯爵との江戸での決戦の印象が強いから…普通に人が行き交ってるだけで感動してしまった。