第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
雨の止まない暗い林の中。
ホテルCieloより高台に位置する場所に停められた、一台のアルファロメオ。
1960年代の懐かしさを感じさせるデザインに、真っ赤な車体は普段であればよく目立つ。
しかし土砂降りと雷の二つによって、車の存在は見事に林の中に紛れ込んでいた。
「あ!ルパンの車だ!」
助手席で双眼鏡を覗き混んだまんまるな団栗色の目が、クリーム色のミニバンを見つけて歓声を上げる。
「マーマ!マーマが言った通り、ここにはルパンがいるよ!」
弾んだ声で振り返った若い男が声を掛けたのは、後部座席を分団に使い寛ぐ一人の中年女だった。
灰色の髪をきつく一つにバレッタでまとめ、紫色の毒々しいアイシャドウにワインよりも深く濃い赤い口紅。
たっぷりと脂肪の付いた手でキセルを持ち、ゆったりと煙を吐く。
「当たり前さね。あたしの大事な書簡を盗んだんだ、此処に来るしかないだろう」
きつい目つきの奥には、ギラついた光が宿っていた。
「マーマ、オレ達が必ず書簡を奪い返すからねっ」
「相変わらず阿呆だねえ!折角ルパンがお宝を探してくれるんだ、奴が見つけるのを待とうじゃないか」
助手席に座るひょろりとした細身栗毛の男と反し、運転席に座っていたずんぐりとした小ぶりで無精髭の男が今度は振り返り笑顔を見せる。
マーマと親しみを込めて呼ぶ声に、女は企み顔で笑った。
「ホテルに潜入してルパンを見張るんだよ!」
「「はいマーマ!」」