第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
辿り着いたホテルは、切り立った崖の上に建築された不気味な外観をしていた。
360度全てが崖に覆われ、玄関となる巨大な門の前に作られた石造りの階段だけが、地上へと続く唯一の道。
激しい雨から逃れるように、車を停め階段を駆け上がる。
大きな門の戸を叩き、ルパンと次元は返事も待たずに踏み込んだ。
「こりゃぁ酷ェ雨だぜ…」
「お、」
「ようこそ、ホテルCieloへ」
水滴が服に染み込む前にと払っていた二人の手が止まる。
ワインレッドの絨毯に、薄暗さを感じる程ほんのりとしか灯っていない数少ない間接照明。
物寂しさを覚えるホテルの受付前で、ぴしりと礼儀正しく立つ燕尾服の老人が一人。
「わたくし当ホテルの支配人、アルドルフォで御座います」
薄らと笑みを浮かべて、客人であるルパン達を出迎えた。
「───当ホテルはルネッサンス期から続いた貴族、ガウティーリ家の居城で御座いました。ガウティーリ家は今から二百年程前に起きた忌まわしき陰謀により、一族皆一夜にして惨殺されたと言われております」
「ああ、知ってるよ。悲劇の花嫁、アデーラの話だろ?」
「ご存知でしたか。ほっほっほ…」
支配人と名乗るアルドルフォに案内され、長く続く廊下を進む。
壁に飾られた金髪の少女の絵画。
大きな角を振り上げた鹿の剥製。
何処か背中に寒いものを感じさせるような装いに、ルパンは笑みを、次元は口をへの字に曲げていた。
ルパンが、ホテルへと改装されても諦めず宝を追い求めた理由は薄々理解した。
しかしアルドルフォ以外に人気の全くないホテル内に、次元は残り一本だった煙草を携帯灰皿へと押し込んだ。
「薄気味悪い場所だぜ…」