第56章 Struggle
医者「うん。血液検査の結果も良好です。この調子でいけば来週には退院出来ますね」
「………ありがとうございます」
ベッドから起き上がり検査着のボタンを留める。
医者「もう無茶はしないで下さいね」
「はい。すみません」
医者「それじゃ次回にでもご主人と3人でこれからの事話しましょう」
「あの…先生」
医者「ん?どうしました?」
電子カルテを打ち込む先生の手が止まる。
「………俺…焦っちゃいけないのは分かってます。でもやっぱり…早く…赤ちゃんが欲しくて…」
医者「………松本さん」
「お願いします。どんな辛い治療にも耐えてみせますから。だから…」
医者「でもそれはご主人と話し合ってからじゃないと」
「潤…主人は…優しいからきっと反対します。甘えたくないんです」
そう言っても…先生は渋い顔を俺に向け、言葉に困っている様だった。
「………どう頑張っても立ち直れなくて…。また授かる事でしか…きっと前向けない…だから…」
先生に頭を下げた。
先生は暫く黙った後、静かに息を吐いた。
医者「もっと…強いホルモン剤に変更すれば…可能性はあります。でも…その分副作用も覚悟して下さい」
「………はい」
医者「頭痛や吐き気。倦怠感…かなり強いですよ。仕事に影響するかもしれません。それでも…」
「構いません。お願いします」
頭を下げる俺を見て…先生は静かに頷いた。