第44章 亜香里の想いと和也の決意
入口のプレートには間違いなく『芹澤亜香里様』と書かれていた。
ナースステーションの看護士さんに許可を取り、さとしと2人で病室に入ると…ベッドで亜香里さんはぼんやりと窓から景色を眺めていた。
あの日からたった3ヶ月程しか経ってないのに…亜香里さんの見た目はかなり変わっていた。
痩せ細った身体。
頭に被ったニット帽。
何本もの点滴が細い腕に繋がっている。
俺は…その姿を見た瞬間、亜香里さんの全てが…分かった気がした。
智「亜香里」
さとしが声を掛けると…亜香里さんは驚いてこちらを見つめた。
亜香里「ど、どうして…」
智「………ここの産婦人科に通ってんだ。通路間違ってここに来たら…お前を見つけた」
亜香里「………」
智「亜香里…どういう事だよ。ここ…聞いたら癌病棟だって…」
亜香里「………」
亜香里さんは黙ってうつ向いてしまった。
俺は…亜香里さんの前に立ち、その腕をそっと握った。
亜香里「………」
「………病気だから…智香ちゃんをさとしに託したの?」
亜香里「………」
「結婚するなんて嘘。自分の幸せの為じゃない。智香ちゃんの幸せの為に…さとしに預けたの?」
亜香里「………っっ…」
ぼろぼろと…亜香里さんの瞳から涙が溢れる。
亜香里「ごめんなさい…ごめんなさいっ…!」
そう言いながら声を上げてなく亜香里さんを…俺はありったけの思いで…ぎゅっと抱き締めた。
「………亜香里さん…!」
この人は…勝手な人なんかじゃない。
俺と同じだ。
さとしを愛して…愛する人との子供を大切に思う…1人の立派な母親なんだと…。
俺の…亜香里さんへの憎しみは…いつの間にか消え失せてしまっていたのだった。