第33章 太陽の兄弟
ー翔sideー
「そーだ。おそれないーで、みーんなのために…」
太陽「あいとーゆーきだけーがー」
小雨の降る昼下がり。
太陽と手を繋ぎ、歌いながら横断歩道を歩く。
春から太陽がお世話になる保育園の見学の帰り道。
普通なら車で向かう場所に太陽が歩きたいって言ったから並んで歩いた。
水溜まりを見付けると楽しそうに長靴で遊ぶ太陽に昔の自分を思い出す。
子供って水溜まり好きだよな…。
「太陽あまりそっち行くと危ないよ。車通るからね」
太陽「あい!」
天気予報でも明日は雨。
今夜から降水量も増えるみたいだ。
気温もかなり下がってる。
「さむ…」
横断歩道に差し掛かったその時だった。
太陽「あ!」
車の急ブレーキの音と共に…黒い塊が俺達の元に飛んで来る。
一時停止した車は…直ぐにその場を走り去って行った。
太陽「にゃんにゃん!」
「あ、太陽!」
青信号になると太陽がその塊の元に走って行く。
車を確認しながら俺も慌てて追い掛けると…その黒い塊は…黒い子猫だった。
さっきの車が跳ねたのは…この子…。
よく見ると…まだ息があるらしく、荒い呼吸を繰り返してる。
太陽「ママ…にゃんにゃんいたいいたい?」
「うん…」
どうしよう…。このまま置いていく訳にも…。
でも…。
太陽「ママ…にゃんにゃん…いたいいたい…」
「………」
真っ黒のその子猫は…まだ小さかった。
今夜から雨足は強くなる。
気温も下がる。
放って置けば…必ず…。
「太陽おいで」
考えてる余裕はない。
俺はその子猫を抱き上げ…こちらに向かって来るタクシーに手を上げた。