第21章 ラズベリーscene3
俺の家での新生活がスタートした。
相変わらずなんだけど、でもなにか違った。
智くんの読書と新聞は続いている。
でもニーチェはやめたみたいだ。
今は松潤のおすすめの洋書を読んでいる。
俺は自己啓発系しか読まないから、小説は薦められなかった。
悔しいので、俺も松潤に本を借りる約束をした。
でも読みきれるかな…
朝、新聞を読む智くんの横で、俺も新聞を読む。
気になる記事に赤丸をつけていたら、智くんは青丸をつけていた。
でも釣りの記事で笑った。
「な、なんだよ。何笑ってんの?」
「い、いや…なんでもない…」
いつの間に買ったのか、青鉛筆で頭を掻いた。
「いいでしょ?最初なんだから…」
照れくさそうに横を向いた。
「いいよ、智くんらしい」
そういうと、まだ残っていた笑いを吐き出した。
「そんなに笑うこと無いじゃん…酷いよ…翔ちゃん…」
「だって、智くんかわいいんだもん」
「えっ?」
そういうと、真っ赤になった。
「お、俺より翔ちゃんのほうがかわいいもん!」
その後は、どっちがかわいいか言い争いになって、最後まで新聞を読めなかった。
今日は俺は仕事がなかったから、出て行く智くんを見送った。
「じゃあ、いってくるね」
「うん。気をつけて」
そういうと、智くんは唇に軽くキスをくれた。
出ていこうとする背中に呟いた。
「いってらっしゃい…ダーリン」
すごい勢いで振り返った智くんは、真っ赤な顔をしていた。
「い、いってくるよ…ハニー…」
そういうと、玄関から飛び出していった。
聞こえたんだ…恥ずかしい…
残された俺も顔が真っ赤だった。
リビングに戻ると、だしっぱなしになっていた青鉛筆をペン立てにしまった。
急に愛おしさがこみ上げて、鉛筆を握りしめた。
このまま、ゆっくりと進もう。
智くんとなら、行ける。
しっかりと歩いていける。
そう思った。
【END】