第17章 ヴィンテージ・ワインscene1
俺も潤の髪を丁寧に洗った。
風呂から上がると、リビングでぼーっとした。
思ったところに風のでない扇風機の前で、潤が寛いでる。
「これ、ほんとどこ向いて風出してんのかな…」
潤が笑う。
「あさっての方向じゃないだけいいでしょ?」
俺も笑う。
「でも、こいつなんか憎めないよな。使いにくいのに」
「うん…」
「なんか俺みたい…」
潤が呟いた。
「え?」
「思った通りのとこに風が出せないのが、俺と似てる」
そういうと、苦笑した。
「俺、不器用だからさ」
俺は立ちあがって潤に抱きついた。
俺もだよ。
俺もこいつと似てるんだ。
思ったところに風を出せないこいつと一緒なんだ。
「潤…愛してる…」
思わずそう呟いた。
初めて口にする言葉だった。
「うん…和也…俺もだよ」
ぎゅっと潤が抱きしめ返してくれた。
「愛してる…」
そう言って俺の髪に顔を埋めた。
10年の歳月は、俺達に何を残したのか。
それはなんなのか、まだわからない。
でもそれはずっとずっと繋がっていて。
今、この瞬間も続いてて。
多分、これから先も続いていくだろう。
細く、長く。
俺達が生きている限り。
【END】