第17章 ヴィンテージ・ワインscene1
潤は何気なく言った。
「……え?」
「だから、愛してる」
10年間、一回も聞いたことのない言葉だった。
「うそだ…」
「嘘じゃないよ…」
またぎゅっと抱きしめる。
「今更、信じて貰えないのはわかってる…ごめん」
潤の熱い吐息が耳元にかかる。
「どんなことしても離れていかないなんて、俺のエゴだった。そんな思いさせてるなんて、わからなかった…全部、俺が悪い。さっきの取り消す。俺が悪い」
潤は顔を上げて、俺の目をみた。
「和也がどうしても別れたいなら、別れてもいい。だけど。…傍に居させてほしい」
俺の手を取って、指先にキスした。
「一緒にいることを許して欲しい」
「そんな…勝手だよ…」
「俺は…俺には。やっぱりお前しかいない。愛してるよ。和也」
潤は目を閉じた。
最後の審判を待っているようだった。
俺は潤の顔に手を伸ばした。
触れると、冷たかった。
緊張している。
頬を手のひらで包むと、涙が溢れてきた。
それを指ですくいとって、潤の唇にその指を這わせた。
これは俺の涙の代わり。
この味を忘れないで。