第13章 マロンscene1
「俺ね…?」
「うん?」
「あの頃のこと、思い出しちゃってさ…大野さんの話聞いてて」
「うん…」
「まだ潤と付き合う前、不安な気持ちとか。俺が潤のこと好きなの抑えられなかったこととかさ」
「うん」
「そしたら、なんか気持ちがあの頃に戻っちゃって」
「そっか…」
「不安になって…でも、潤に身体を触られたら、ものすごく幸せになって…」
あの涙の理由か。
「潤、セックスの時しか好きって言ってくれないし」
「えっ!?」
「ほんっと、鬼だよね…」
「や、だ、だって…」
「別に俺、女じゃないからさ、しょっちゅう言えとは言わないよ?」
「和也…待て…」
「でもさぁ、好きって言ったら、そん時くらい、言ってくれてもいいんじゃないかと思うわけよ?」
「や、和也?」
「ばかじゅん!」
そういうと、和也は無言になった。
「和也?」
寝てる…
机に突っ伏して、気持ちよさそうに眠ってる。
俺は笑いがこみ上げてきた。
俺のここ2週間の嫉妬は、和也をより好きになるエッセンスになった。
そんな甘美な物をくれた大野さんには大いに感謝しなければなるまい。
今度飲みに誘おう。
奥さんも一緒に。