第1章 きみどり scene1
「えっ!撮影中止になったの?」
嬉しさを隠そうともせず、聞いてくる。
「はいはい。中止ですってよー。マネージャーからメール入ってた」
「じゃあ、ゆっくりできるね!かず」
「…そうね…」
俺の悪い癖なんだけど、ここまで素直に来られるとまぶしすぎて直視できない…どうしよう…
「じゃあ、そうと決まったら、まずは腹ごしらえしよっか」
大野さんは手早くそれらを窓側に押しやり、とりあえずそこでスタンバイさせておくようだった。
空いたテーブルの上に、おかゆの入った土鍋を置く。
「ごめんね。ホントは吐いたときっておかゆとかが良かったんだよね?おれ、かあちゃんに叱られて…」
「ぶっ…ちょっ、かあちゃんって!かあちゃんに言ったの!?」
「え?言ったよ?なんか悪かった?パジャマも使っちゃったし」
「いや、悪くないけど…悪くないけどさ…俺だって言ったの?」
「え?もちろん!」
俺の大脳辺縁系が崩壊した。
「なんであなた…そんなことおかあさんに言っちゃうの…」
「え?なんでって…かずが具合悪くてうちにいるから、何作ったらいいか聞きたかっただけだよ?」
「あなたのおかあさん、なんで俺があなたのうちにいるか聞かなかったの?」
「うん。聞かなった」
似たもの親子…
「あのね、大野さん。今度から俺がここにいること、人に言っちゃだめだよ?」
「なんで?マネージャーが知ってるじゃん?」
「マネージャーは今日しか居ないと思ってるし。それに…」
「それに?」
「俺達が、こういう…」
「こういう?」
「……こういう関係なの、知らないでしょ!?」
「……?」
鈍い…にぶすぎる…
がっくりと項垂れた。
「も、いい」
「えー!かず?ちゃんと言ってよ?俺わかってないよ!?」
「俺らはぁ!なにになったの?さっき!」
「え?何になったって…」
「寝る前!あなたなんて言った!?」
「え?無理してない?って聞いた」
「その後!」
「また寝るか?って聞いた」
「もっと後!」
いきなり大野さんの顔が真っ赤になった。
「あ、あ、あ…マジで?」
「なんだよ?もしかして忘れたの?」
「……かず、起きてたの?」
めっっちゃ起きてたーーーー!