第29章 ラズベリーscene4
帰りの車の中で、俺たちは黙っていた。
でもソレは嫌な沈黙じゃなくて。
翔ちゃんも薄く笑っていた。
「智くん…」
「うん?」
「もう、説得やめようか」
「うん…翔ちゃん、それでいいの?」
「うん。なんか気が楽になっちゃった」
「そっか…」
俺たちはできることはやったと思う。
それに跡継ぎの問題とか、お母さんが協力してくれるっていうし。
修くんさえ嫌がらなければ、多分それで行くんだろうと思う。
修くんが嫌がったら、舞ちゃんだっているし。
群馬のおばあちゃん達には理解できないかもしれないけど…
「シュウには悪いけど、アイツだってマスコミ入りたいって言ってるし…俺が就職に協力すれば、嫌って言えないと思うんだよな…」
お兄ちゃんの顔で翔ちゃんが言う。
「まーた…立場利用して。悪い兄ちゃんだなぁ…」
「いいんだよ。だって俺が一番大事なの、智くんだもん」
そう言って俺に笑いかけた。
綺麗な笑顔だった。
「智くん…カッコ良かった」
「え!?」
「父さん、応接室入れるとき…」
「あ、ああ…」
「凄くかっこよかった…」
「う、うん…ありがとう…」
へどもどした。
だってアレは俺であって俺じゃなかったから…