第29章 ラズベリーscene4
「父さん、今日は逃げないでよ?」
翔ちゃんまで声に力がある。
「逃げるとはなんだ…」
お父さんはなんだかもごもごしている。
「父さん、俺はホモやゲイとちがうし、母さんの教育が悪いからこうなったわけじゃない」
「わかった…母さんのことは謝る」
お父さんは潔かった。
さすが翔ちゃんのお父さんだなと思った。
「だが、お前たちのことは理解できない」
「父さん…」
お母さんは目頭を押さえた。
「お父さん、翔が選んだことですよ…」
それだけいうと、押し黙った。
「ダメだ。認めるわけにはいかない。櫻井の跡継ぎが、子供を設けることもできないなんて…」
お母さんが震えだした。
「こんの石頭ぁ!!!」
「ほあっ!?」
俺はびっくりして飛び上がった。
翔ちゃんは額を押さえた。
「母さん…ちょっと落ち着いてよ…」
慣れているのか、翔ちゃんもお父さんも動揺していなかった。
「あなたねえ!この前から翔と大野くんがこんなに真剣に話しているのに、聞きもしないなんて…!」
一息おいた。
「石頭ぁ!!!」
そういうとスリッパをお父さんに投げつけた。
弧を描いて、スリッパはお父さんの頭にコンと当たった。