第5章 7月
―谷地仁花と母への手紙―
拝啓 お母さん様
あの日マンションの前でバレー部のマネージャーをやると宣言してから早くも一ヶ月が経ちました。
あっという間にやってきてしまった東京での遠征に若干の不安を感じていましたが、なんと早速お友達ができたので紹介したいと思います。
今私の目の前でつるつると掴み辛い煮物のうずらに苦戦している女の子は黒尾鈴ちゃん。私と同じ1年生だそうです。
ちなみに3年生にお兄さんがいるらしく、名字だとややこしいという事でお互いに名前で呼び合うようにしました。
「鈴ちゃん、あの…スプーン使う?」
お椀の筑前煮から顔を上げた鈴ちゃんは顔を赤くしてふるふると首を横に振っています。
(か、かわいい……)
…同い年の筈なのに何というか守ってあげたくなるような可愛らしい女の子、そんな印象です。
口数の少ない鈴ちゃんですが、彼女と一緒に私もこの合宿、マネージャーとして烏野のみんなをサポートできるよう…
ガシャン、と食器とプラスチック製のお盆がぶつかる音がして、驚きの余り心臓が口から出るかと思った。
そして目の前にはひっくり返ったご飯茶碗と瞳を閉じてぐったりとした様子の鈴ちゃん。
(……死っ!?)
「わっ、大丈夫?救急車っ?救急車呼ぶ?」
私の呼び掛けに反応は無く、依然としてぐったり椅子の背にもたれている鈴ちゃん。
(アレルギーのある食べ物?…ま、まさかご飯に毒が?そ、そんな!)
「や、谷地さんどうしたの?」
「山口くん、大変なの!鈴ちゃんが、誰かに毒を盛られて…」
「毒ッ!?」
「……いや、どう見ても寝てるだけデショ」