第16章 踏み出す勇気【チョロ松】
「…特別、何かがあったわけじゃないんだ。僕が単に緊張で眠れなかっただけなんだよ」
まずは駅に行くということで、バス停までの道すがら、チョロ松くんはぽつぽつと遅れた理由を語り出した。
「緊張?どうして?」
「…その、僕、女の子とデートするのなんて初めてなんだ。あ、デートっていっても本物じゃないことはちゃんと分かってるよ。でもやっぱり、君と二人きりで過ごすのは僕には難易度が高くて…」
「そっか…」
「こ、こっちから言い出したことなのに、無責任だよね。だからせめて眠れないなら、どういうプランなら君も僕も楽しめるかを徹夜で必死に考えたんだ。それで、気がついたら朝になってたというか…寝坊しちゃって…」
だからチョロ松くん、少しやつれ気味なんだ。いつも困り顔の彼だけど、今はもっと困った顔をしている。
「何度もしつこいかもしれないけど、本当にごめん。デートのことを考えすぎて、その肝心のデートで君を待たせるなんて、本末転倒もいいとこだよ…」
チョロ松くんはますます項垂れてしまう。こんな時、なんて言ったらいいんだろう。私は元々怒ってないし、彼は過剰なまでに謝ってくれてる。
そういえば、チョロ松くんってこういう人だったよね。初めてみんなの家に行く時に、迎えにきてくれた彼は私相手にひどく取り乱していたっけ。
でもあの時は最後までちゃんと送り届けてくれた。ううん、あの時だけじゃない。カラ松くんと一緒に、あいつから私を守ってくれた時だって…
慣れていないだけで、きっと根は誠実なんだ。
「チョロ松くん、デートプラン考えてくれたんだよね?私のために、わざわざありがとう」
「……え?」
「遅刻はもちろんいけないことだよ。でもチョロ松くんは悪くない。むしろ私がお礼したくて言ったわがままなのに、こんなに真剣になってくれて…なんだか嬉しいんだ」
チョロ松くんに笑いかける。デートに暗い雰囲気は似合わない。
「…絵菜ちゃん…あはは、やっぱり、君には敵わないや」
ようやく、チョロ松くんも笑ってくれた。
「これ以上謝ったら、それこそ君に怒られちゃいそうだし、もうやめるよ。けどまだ僕の気は済まないから、今日は全部僕に奢らせてね。あ、申し訳ないとか感じちゃだめだよ」