第3章 世にも稀な6つ子たち
「え、あれ、一松兄さん?」
「帰んのー?」
十四松くんとトド松くんが、一松くんに気付いて声を上げる。
「…帰る。もう遅いし」
「でもおそ松兄さんだけずるくない?」
「そうだよ。だったらみんなで…」
「…いや、さすがに彼女にとって全員は迷惑でしかないだろう。悔しいが、ここは言い出しっぺの兄貴に任せるしかないか」
「うん、僕もそう思うー!」
遠目から見ているだけだったけれど、どうやら話がまとまったらしい。
「おーいっ」
おそ松くんが手を振って私を呼ぶ。
小走りでみんなの元に向かうと、おそ松くんはまたもやふんぞり返って、得意げな表情。
「厳正なる審査の結果、君を送り届ける権利は、この長男、おそ松が獲得した!」
…うわぁ、みんなおそ松くんのことすっごい睨んでるよー…
「…え、えっと、うん」
「他の兄弟たちとは残念だがここでお別れなんだ……ぐすっ、お兄ちゃん悲しい」
「変な芝居いらないからさっさと行けバカ長男」
チョロ松くんの鋭いツッコミが入るも、おそ松くんは完全無視。
「君もいい?」
そう問われて、私は思わずドキッとする。…申し訳ない気もするけれど、頑なに拒むのも失礼だよね。
「う、うん、じゃあ…近くまでお願いします、おそ松くん」
「おう!任せろ!」
ニカッと笑うおそ松くんに、私も笑いかける。人懐っこいなぁ。
「もしおそ松兄さんに何かされそうになったら、問答無用で警察に突き出していいからね?」
「くれぐれも身の回りには気を付けてな。赤いパーカーには特に注意したほうがいいぞ」
「……頼れとは言ったけど、いらなくなったら捨てていいよ」
「そうそう。6人が5人になっても誰もなんとも思わないからさ」
「確かに!」
「……なぁお前ら、今日はやたらと俺に冷たくね?」
「あはは…みんなありがとう!今日は楽しかったよ!」
みんなのおそ松くんへの散々な物言いに苦笑しつつ、私は感謝を告げて、5人と別れた。