第3章 私ができること
徐々に周りから人がいなくなっていって、辺りがよく見渡せるようになった。まだ叫び声は聞こえている。その方向に目をやると、幼い少年がその下で泣きながら怪物に向かって体当たりしていたのだ。その小さな体で少年は必死に母親を助けようとしている。
「返せ!おかーさんを返せぇぇ!」
怪物の片手には女性が握られている。気絶しているのかぐったりとうなだれていて、逃げられる状態ではない。
「このバケモノめぇぇ!」
それまでは子供に何をされても気にせず、街を破壊していたが、耐え切れなくなったのか、突然もう片方の腕を振り上げた。
「危ないっっ!」
気付いた時には、もう私は飛び出していた。運動部で鍛え上げられた強い脚で、少年の方へ全速力で向かう。そう遠くはない、間に合うかもしれない。いや、絶対に間に合ってみせる!そう思いながら走った。
《バァァン!!》
そして、怪物の腕が地面に振り下ろされた。私の腕の中には、しっかりと少年が抱かれている。
「た、助かった...」
「あ、ぁぁぁ...」
少年が言葉にならない声をあげている。きっと怖かっただろう。でも母親を奪われるのに比べたら、自分が飛び出していくのなんて大したことではないと思ったのかもしれない。
「頑張ったね。でも、君はここにいちゃいけないよ。」
「ヒック...でも...おかーさん...が...」
「私が何とかする。だから安心して。ね?」
何とかって...自分で言っておいてどうしたらいいのかさっぱりわからない。少年の後ろ姿を見送りながら考える。怪物の倒し方なんて知らないし、母親を助けられるかもわからない。でも、あの子に言ってしまったのだから、やるしかない。約束を守れないなんて嫌だ。