第1章 『Trade 2→9 』影山
同窓会の会場であるホテルから一人で出て来るあいつの顔を見た瞬間、俺は一瞬で当時の自分に戻ってしまった。
忘れられてなんていなかった。
あいつの笑顔も、いつもちょこちょこと俺の後を追いかけてくる足音も。
そういうのが全部、一瞬のうちに蘇ってきた。
高校の時、俺にはずっと追いかけていたやつがいた。
そいつはバレー部のマネージャーで、いつも一生懸命だけど、ドジで危なっかしいやつだった。
他のやつらもそんなあいつを放っておく訳がなく、入学してからの約1年間はあいつを巡って部員たちと争う日々が続いた。
そんな毎日が終わりを告げたのは、春高も終わり、3年生が引退した後の2月。
忘れもしない、バレンタインデー。
あいつは伸ばした俺の手をすり抜けて、瞳を輝かせて、菅原さんの元へと走っていった。
あの時、俺はあいつに「早く菅原さんのところに行け」と促したけど、心の中ではそんなことは全く思っていなかった。
そう、心の中は真逆だった。
行くなよ。
本当はそう言いたかった。
言えるわけねえよ。
お前が誰を好きでも構わないから俺の側にいろ、なんて。
俺は、俺のことだけ見てくれるお前をずっと求めてた。
でも、そんな日はもう来ないんだとあの時、絶望的に悟ってしまった。