第19章 J'ai de la fièvre. 仏
──────
おやつの時間、というには遅すぎる時間帯。
外では昼食後のランニングに悲鳴を上げている生徒がだるそうに走っている。
ジャージの色はローナの上履きのラインの色と同じだから、一年生か。
─ピピッ
電子音がなり、取り出して液晶を見ると
「…38.9度ねぇ…」
そりゃこんなに辛そうにするわ。
もともとそんなに身体はつよくないのに、訓練やら喧嘩やらで無理してるから体調崩すんだよ。
喘息だって俺らが思ってるよりも酷いくせに、お馬鹿。
「小さい頃から…坊ちゃん守るためだからってなんでもしてきてさー、」
泣き虫な兄に変わって、性別偽ってまで彼を守ってきたローナ。
外見からしたらただの美青年だけど、中身はただの純粋な女の子。
ホントはエリザやリヒテンみたいにフリフリなワンピースだって着たいくせに、おめかしして街中歩き回りたいくせに。
「正直俺、お前のこと心配だよ…」
いつ今日みたいに倒れるか、いつ無理をして溜め込んで爆発するかわかんないんだから。
そんなローナはつい数時間ぐらい前までは育ち盛りの犬みたいにギャンギャン騒いでたくせに、今となっては荒い呼吸を繰り返しながら寝てる。
あの元気が嘘みたいだ。いつもこんなんなら俺も坊ちゃんも手を焼かないで済むんだけど。
「…まあ、それが可愛いんだけどね」
閉じている瞼に唇を落として、また頭を撫でる。
ねぇ、Ma cherie(俺の愛しい人)
せめて、今だけは
「ゆっくり休みなさい」
────────
その2日後
「…いやおかしいよねこれ」
俺の目の前で咳をしながらボソボソと愚痴を言ってるのは幼馴染みのフラン。
どうやらあの日から俺の熱が移ったらしい。
「…あの、一言言わせて…ざまあ」
「酷すぎる!」
「どれどれ…39度ってお前死ぬんじゃないの」
「残念〜お兄さんは不死身だよ」
「おいフランシス、この大英帝国様が日本のオカユとやらを作ってやったぞ」
エセ英国紳士がお盆の上に乗せて持ってきたのは明らかにオカユとは程遠い黒い物質。
どす黒い煙を漂わせながら密かにプスプスと音を鳴らしている。下手をすれば爆破でもするのではないか。
「…お前死ぬんじゃ…」
「やめて」
End