第4章 Vertrag 普
「ッガハ…ッ!!」
俺の目の前で黒い公国服を纏ったあいつは爆発により、既に崩れていたビルに突っ込んだ。
なんとか魔法で落ちることなく着地したものの、途端によろける。
「ギルっ!!」
倒れる前にギルベルトの体を受け止め傷口を確認すると、想像を上回る傷のグロさに胃の中の物を戻しそうになる。
ドクドクと止まることのないギルベルトの血液は黒い布に染みをつくる。
俺の腕の中で苦しそうに荒い呼吸を繰り返すこいつに、俺は何も出来ずにいた。
止血もせずに、ただただこいつの顔を見て無力な自分を恨んで。
「げほっげほっ…に、泣いてんだ…ぁ?」
「は…?」
咳をする度に口から血を吐き出した。
アルビノ特有の白い肌がより一層赤を目立たせる。
「何泣いてんだよ…ははっ、」
「お前だって泣きながら笑ってんじゃねぇよ…バカァ」
「うっせえ泣いてねぇぞ…痛すぎて笑っちまうぜ…あ、なんか目からも血ィでてきてら…」
「それ涙だバカ」
こんな時もいつもと変わらない馬鹿な会話をして、こんなやり取りがいつまでも続けばいいのにって思った。
でも世の中そんなに甘くはないって、宙に浮かんで今もなおビルや電柱を巻沿いに所構わず攻撃してくる魔女に思い知らされた。
ギルベルトはincubatorとやらと契約した魔法使い。
なんでも願いを叶えてくれる代わりに魔女と戦う使命を与えられた。
その際貰った魔法使いの証である彼のソウルジェムは穢れが溜まり、色が濁っていた。
「やっべ…濁ってる…」
「あ、あれは…グリーフシード…」
魔女を倒した時に落としていくグリーフシード。あれがあればすぐ穢れをなくすことが出来るが、ギルベルトは笑いながら首を横に降った。
「んなのいらねぇよ、全部あげちまった」
「なに馬鹿してんだよっ…!」
「んなもん無くても戦えるんだぜ」
今現在やられているのに何言ってんだろうこいつは。寝言は寝て言えっつーの。
「まあ万が一濁りそうだったら直ぐにアイツを倒してかっぱらえばいいんだ。なぁに簡単なことさ」
おそらくコイツは、間に合わない事だって、自分がもうすぐ死ぬ事だって解ってるはず。
なのになんで、笑ってられんだ。