第11章 PagophagiaⅡ 英?
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アルがイギリスの植民地から、アメリカとして独立した。
降りしきる雨の中、兄である筈のあいつに銃を向け、確かにそう言った。
『 もう子供でもないし君の弟でもない。
たった今俺は君から独立する。』
大人ぶってかっこつけてそう言い放ってたけど、泣くのを我慢するあいつの顔は、まだ甘えたがりの小さい頃のあいつそのモノだった。
アーサー、アーサー。
ごめんね。泣かないで、アーサー。
純粋な目で心配そうに顔を見上げるあの頃と変わらずにいた。
俺はこの結末をとうの昔に予想していた。
何故?
10万以上の兵力の差があったから?距離が遠いから?
違う。もっと簡単。
ただ単に、あいつがアルを潰すなんて出来ないだろ。
大好きな弟を傷つけるくらいなら、自分が傷ついて泣くことを選んだ。
情けない…。
自ら負けを取ったあいつも。未だに疑っている俺も。
「ん…?」
やっと見えてきた我が家の前に突っ立っているのはサラサラの長い髪を雨に濡らしている幼馴染み。
でも、この前までは兄の敵だった。
アルフレッドの独立の手助けをしたあいつも、幼馴染みを心配してここに来たのだ。
特に気にしてない俺はともかく、あの状態の兄に会うなんて馬鹿げてる。
いつもの能天気でおちゃらけている様子はなく、この空のように顔を曇らせているのは、なんとなく分かった。
構わずに家に向かっていると、足音に気づいたようで、びっくりした顔でこちらに向かってきた。
「ローナちゃ…、傘は?!大丈夫!?」
自分の事は棚に上げて着ていた高そうなコートを俺の肩にかけた。
まだ肌寒いこの中、自分だって寒いはずなのに、かっこつけ。
「…どうせ追い出されたんだろ」
「うん…今は落ち着いてるけど、ハサミで襲われかけた」
はは、と苦笑いして搔く頬には切り傷が残っていた。
成長する様子もない筈の胸が、傷んだ。
「ねぇ、ローナちゃん。坊ちゃんのことはローナちゃんが1番理解してると思うけど、言っとく…」
そう言いながら俺の前髪を横に流して、困ったように笑った。