第7章 My Brother 英
「…へ、」
頭の中で悪口混じりの独り言を言っていると、右隣でテノールの声が響き、素っ頓狂な声を思わず上げる。
ついさっき我に返ったはずなのにまたぼーっとしていたらしい。
資料とにらめっこしていた筈の彼は、変なものでも見るような顔で私の方を見ていた。
「…え?」
「なんだよ、女みたいな声出して」
いや女ですって、という言葉は出なかった。それよりも結構近い距離に整ったその顔があり、今にも私の顔が沸騰しそうなのだ。
いやこの距離に持ってきたのは私だが。
そんなのわかってはいるけど改めて見るとやっぱりイケメンで。
「え、あっ…いやあ、何でもねーです…」
「は?さっきから呼んでただろ、言えよ」
聞いてたのかよ、なんだよお前。なら初めから返事しろよ。
勿論、このような言葉を発した直後の事はわかっているので出しはしない。
「あー…あはは、いやあ帝国様は今日も頑張ってますなーって!!」
「お前が働かねえからだろ」
「嫌だなあー?俺だって働いてますよー、あー忙しい」
「何言ってやがる、この資料だって元はといえばお前の…って逃げんなばかぁ!!」
これ以上顔を見られなくなって、見られたくなくて結局自分の部屋に移動することにした。
なんなんだこの無駄な胸の高鳴りは。不整脈か?不整脈なのか?きっとそうだ、不整脈だ。
疲れてるみたいだし、寝よう。そうだ、フェリシアーノのとこでは昼寝をシエスタと言うらしい。
シエスタしよう!!
そう決めて完全に寝るまで何時間かかったのだろうか。
仕方ないじゃないか、瞼の裏にまであの人の顔がはっきりと写ってしまっていたのだから。
END