第7章 My Brother 英
うちの上司は真面目だ。クッソ真面目だ。
元ヤンのくせに。
これでも数百年前は船に乗ってヒャッハーべハハハハしていたのだ。
その時と今を比べると本当に同一人物なのかと疑うほど変わった。
それよりも前から横で見ていた私が言うのだから間違いない、多分。
そんな上司、イギリスまたの名をアーサー・カークランドは先程から机に向かい、立派な眉を細めて資料とにらめっこしていた。
ちらっと資料の内容を見てみると、なにやら小さい文字が書かれていたが一瞬で解読する気が失せた。
次に上司の横顔を伺う。
翡翠の瞳はいつもより細められ、眉との位置が近い。あ、クマ張ってる。
この距離で顔を見ていても気づかないとは、相当集中しているらしい。
本来ならここで引き、大人しく別室で本でも読むべきだろうが、私はそんな選択はあえて選ばない。
今はとにかくこの上司を弄りたくて堪らない。
怒っているところを更に煽ってやりたい。
想像するだけで口角が上がるのを唇をかんで我慢する。
「帝国様。」
私が上司を帝国様と呼ぶのには特に理由はない。
ただ、海賊だった時にそう呼べと言われたから今でも言っているだけ。
帝国ではない今では、呼ぶべきではないとわかっているが、他の呼び方は何かむず痒くて、呼びずらい。
だから帝国様。
呼ばれている本人もやめろとは言っているが本心ではない様子。
「てーこくさまー」
もう一度、大きめに呼ぶが返事はない。
しかめっ面のまま眼球だけ動かしている彼は、上等な人形みたいで。
少しの間だけ見惚れてしまっていた。
キラキラと光るくせっ毛の髪、深い緑は翡翠を思わす瞳、高い鼻、きめ細かい白い肌、薄ピンクの唇。
同じ島国の日本、本田菊とは違ったような、似ているような美系。
本田は歴に合わず可愛らしい、幼い顔立ちだった。それも彼の魅力なのだろう、初見時は今と同じように見惚れていた。
この上司もどちらかというと童顔なのだろう。が、何か違った。
そういや、前にライヴィスが「アーサーさんってかっこいいですよね!!」って言ってたっけ。
じゃあカッコイイんだろうね、どうでもいいや。
確かに美形なのは認めるけどなんで眉濃いんだよ、私まで遺伝しただろが、景気悪くすんぞ。
「好き勝手言ってくれるじゃねえか」