第6章 君に微笑みと花束を 日
「本田、本田」
しっとり、落ち着いた声で私の名を呼んだくせに恥ずかしそうに目をそらす彼女。
「おやローナさん、なんでしょうか?」
今年二回目の世界会議、会場は日本。
休憩時間中、一息つくために中庭にて座っているとローナさんが先程のように声をかけてきたのでした。
声をかけられ数分、彼女は未だ恥ずかしそうに口ごもりながらもじもじとしている。
いつもは性別を偽り、御兄様以上に凛々しい貴方がこうしている姿をみると、とても微笑ましい。
「えっとだな…そ、その、」
「はい」
「ほ、本田……」
「はい」
本当はもっと気の利いた言葉を差し上げたいのですがここでコミュ障発動、同じ様な言葉しか口に出せないのが不覚ですね。
そのせいで貴方も素直に口にしたい言葉が出せないでいらっしゃる、いやしかしこれもまた…いいかもしれない。
そっと火がついた、己の意地悪な心。
「…そろそろ休憩時間も終わりになりますので…では」
「ッ…」
わざと嘘を付いてその場をそそくさ去ろうとすると、悲しそうで悔しそうな顔で私を見つめる。
燃え上がる胸の奥。ギルベルトさん程のサディズムは持ってないけれど、彼の気持ちが少しだけわかる気がする。
「おい待てっ…」
右手を女性にしては強い力で引っ張られ自然に足が止まる。
逸らされ続けた青緑の瞳が、今ようやくぶつかり合った。
何か言いたげな口が力強く閉ざされたあと、再びゆっくり開かれる。
「…Happy birthday」
ずいっと強引に差し出された手には、この国の象徴である高貴な花々。
予想していなかった出来事に呆気を取られていると、差し出した本人は赤く染めた頬を掻きながら不機嫌とはまた違った顔で私を見ている。
「…受け取らねぇのかよ」
「あっ、いえ!もちろん頂きますよ」
花束を受け取ると華やかな植物の香りに心が安らぐ。
小さいながらも懸命に咲き誇るその姿に何度元気付けられたか。
「そんなんで悪かったな、お前の好きなもんとかわかんねぇから」
「そんな、とても嬉しいです。…それに、プレゼントは物ではなく思いやりの心が大切なんです」
「心、ねぇ」