第28章 Pureness 西
ある日、ため息をつきながらリビングのドアを開くと、いつもなら台所にたっているフランがいなかった。
フランだけじゃない、ほかの奴らの姿もないじゃないか。
そのかわりに、テーブルに置かれた五人分の夕飯と「出かけるからチンして食べてね」的な内容の置き手紙がそこにあった。
「ん?ローナちゃん?」
静まり返った空気の中で背後からの声に肩をびくつかせ振り向くと、同居人の1人のアントーニョ。
着崩した制服姿に腕には異様に薄いスクールバッグ、今帰ったのだろうか?
「なんやー教室におらんと思っとったら帰ってたんか」
「いや、俺も今帰った。バスケ部の練習試合に巻き込まれてた」
「…あー!1人ずば抜けてうまい奴、あれローナちゃんやったんか。スポーツ上手やもんなあ?」
「はいはいどーも」
トーにょの褒め言葉に適当に返事をすると「褒めとんのにー」なんていいながら頬を膨らました。
褒められるのは苦手だ。 どう返事をしたらいいかわからないし、ほんとにそう思ってるのかわかるのはそいつ自身だし。
お世辞を言うくらいならいっそのことヘタクソだと罵ってくれた方がどんなに気が楽か。
「相変わらずめんどくさいやっちゃな」
意外にも男らしい手が俺の頭を優しく撫でる。
それが嫌で無愛想に叩くと困ったような顔で俺を見つめてくる。
嫌って言っても別に潔癖なわけじゃないけど。
多分気分的な問題。
「…素直にならんと」
「…うっせえ」
「そんなんやからギルちゃんにも誤解されるんやで?昨日も『なんで俺様ローナに嫌われてんだ??』やて。純粋やな」
自分でもわかってる。この性格がどれだけの人間を傷つけてきたか。嫌というほどわかってる。
ギルの気持ちだって痛いほど伝わっている。
あれだけ素直に自分の気持ちを表すことが出来たら、あいつにも辛い思いさせることなんてないのに。
「…俺には関係ない」
「あかんなぁ。逃げようとすんのローナちゃんのあかんとこやで」
その発言が鈍い音を発しながら心に刺さった気がした
瞬間、顔が一気に沸騰したみたいに熱くなってカッとなる。
力任せに握っていた拳の痛みが吹っ飛んだ。
「お前なんかに俺の何がわかる?!」