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【ヘタリア】Jasper Green【短編集】

第23章 落日 日 ※閲覧注意



「…そうか?」

「はい」


瞼を閉じて空気を、自然を、平和と名乗った日常を感じる。

何処からか漂う磯の香りが思い出させる、過去の記憶。

裏に映る何も出来なかった己自身。 こみ上げる、苛立ち、虚しさ。

好きだったはずの海も、また飲み込まれそうだと思うと怖くて近寄れなかった。

思い出すだけで胃が荒れそうなほどの惨状。

あの時の劈く赤子の泣き声、取り乱す人々の悲鳴が脳に残って離れてくれない。


「本田?」

「…すみません」

「…大丈夫かよ?」

「ええ、心配なさらずに」

「ふぅん」


肩を叩かれたことで、ふと我に返り彼女の私を気遣った質問に愛想笑いで返す。

単純な彼女はならいい、と視線を私からぽちくんにもどし、この前買ったジャーキーを片手に遊び始める。

流れる白い雲の隙間から見えるのは何もかも吸い込むような青さとは程遠い、ねずみ色。


「晴れ、ですね」

「…ん?曇りだろ」

「…そうでしょうか?」

「疲れてんじゃねぇの」

「貴方のお兄さん程ではありませんよ」

「爺なんだから無理すんなよ」


つむじから首にかけて、ガシガシと雑に撫でられる。

久しぶりに感じた温もりに少し心が和らいだ。


「…もう少し、撫でてもらっても宜しいですか?」

「あー?お前も甘えたがりかよ」


言葉では強がってる癖に、顔は嬉しそうな彼女の顔が掌の力で伝わった気がした。

もう少し、もう1時間くらいこのままでいたい。


「長すぎ、冗談だよな?」

「…」

「なんか言えよ。まあいいけどよ」


実は本心だったりするんです。

私だって好きな人の前では甘えたい事だって、あるんですよ。

最近数年の間は忙しかったですからね。


だから、もう少し。

このまま。


End

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