第23章 落日 日 ※閲覧注意
随分と空気が穏やかになった春の初め。
春風が吹く度に揺れる、木の枝。
長い長い冬が開け、桜の蕾も膨らみ始めた、
弥生の昼時。
心地いい陽向の下で深みのある緑の湯を啜りながら平凡なこの時間を静かに楽しむ。
「なあ、暇だしどっか行こうぜ」
隣で退屈で仕方ないと縁側に寝っ転がる彼女にはしたないと笑いかけると、口を尖らせながらぽちくんとじゃれ始めた。
「平凡だからこそ、こうやって日向ぼっこをするのですよ」
「暇つぶし?」
「いえ、毎年この時期に一日中。」
「何のために」
「…平和を心から感じるためです。」
よくわからないと疑問が残った顔でみつめてくる彼女。
わからなくて、いいんです。
私も平和とは何か自分でもよくわからないのですから。
戦が無くなれば、本当にそれが平和なのか。
民が幸せに暮らせば、本当にそれが平和なのか。
どこからが平和で、どこまでが平和ではないのか。
それがわかったなら、それこそ平和なのか。
本当に、平和というものは存在するのか。
現実は、物語のように幸せに終わる事はできないのか。
少なくとも今わかるのは…
「まだまだ、世界は平和になりそうにないですね。」