第10章 俺なら@菅原孝支
「——取り敢えず、ハイ。これ飲んで落ち着いて」
「…ありがとうございます…」
菅原から渡されたペットボトルのお茶を飲み、美心はふぅ、と息をついた。
「…で、どうしたんだ?」
急に体育館裏から飛び出して来た事。
そして、泣くのを我慢していた事。
菅原はそれを問うた。
「…さっき……」
美心は俯き、ポツポツと話し始めた。
昼休みの事である。
美心は、影山のトスが崩れてきている事に気づいていた。
本人も、それは分かっていたのだ。
早く戻ってほしいと思った美心は、影山に「どうしたの?」と訊いた。
すると、「お前には関係ない」と返されたのだ。
「私…心配してたんです。
飛雄くんが苦しい時には支えてあげたい。一緒に悩ませてほしいって思って。なのに……」
「桐谷…」
菅原が名字を呼ぶ。すると、美心はまたひと粒涙を流した。
「桐谷…そう、飛雄くんも名字で呼ぶんですよ。私は名前で呼んでるのに……恥ずかしいけど、ちょっとは彼女っぽいからって。…なのに…っ」
ずっと言えなくて、ずっと気づかれなかった思い。
内気で夢見がちな少女の欲心を、菅原はじっと聴いていた。
「…桐谷、ちょっと座って」
「?…はい」
すぐ傍のベンチに腰掛け、溢れ出る涙を拭う。
菅原は美心と向かい合わせにしゃがみ、目を見つめて言った。