第5章 失われた恋の行方@菅原孝支
美心が好きになる人は、大抵彼女持ちの男だった。
高3になって、7ヶ月。受験前で、目指す大学に入ろうと奮闘し、別れるカップルの多いこの時期。
わざわざ、恋人を作ろうなどと息をまく者は少ないだろう。
美心は、その少数派の1人だった。
「彼氏ほしい」
「はい、本日5回目の心の叫びいただきました〜」
「むぅ……孝支のばーか」
あっかんべーをする美心に、菅原はべべべのべーと返した。
「懐かしいね。『もんちっち』だっけ?」
「そうそう。やってみる?」
菅原は両手を差し出し、にっこりと微笑んだ。昼休みのざわめきから外れたこの校舎裏は、他に人がこない。よって、2人の秘密の場所のようになっていた。
だから、ここでは素直になれる。
美心はそう思っていた。
「幼稚園の頃、よくやったわー」
「なんだっけ、『あーのっこのっこのっこ〜』だっけ」
「そーそー!」
「うっし、やるべ!」
2人は向かい合い、両手を繋いで歌い始めた。
——あーのっこのっこのっこかわいくないねっ
てるてるぼうずのもんちっち
あもんっ あもんっ あもんちっち……
「「ビームシュワッチ!」」
2人の声が重なり、奇怪なポーズでじゃんけんをした。
そして、お互い爆笑してしまった。