第19章 月頼み@岩泉一
「…あ、ねぇ私浴衣なんだけど」
岩泉は腕につられて身体も揺れる。イカを飲み込んでから、彼は止めるよう腕を懸命に止めた。
「だからなんだよ」
「普通、彼女が浴衣着てきたら言う事あるでしょ!」
「お、浴衣じゃん」
「まんまじゃん!」
美心が怒りに任せてりんご飴をガリッとかじる。うん、美味しい。
真っ赤なりんご。それを眺めていると、その手が掴まれて少し引っ張られた。視界に映ったのは、太くて男らしい腕。
「ちょっと、はじめちゃん」
私のりんご飴に何を、
——ガリッ
目の前に、岩泉の顔。
ごつい拳で、りんご飴を持つ美心の手を包む。
彼の唇から、少し掠れた低い声が漏れた。
「嘘。その…き、綺麗だ」
…き、れ、い。
口パクで小さく反芻して、
…カアァッ
そんな効果音をつけたくなる程、美心の頬は一瞬にして真っ赤に染まった。
「…何よ、はじめちゃん。…らしくない」
ポコ、と厚い胸板を軽くど突き、顔を背ける。
そんな彼女の姿に、岩泉は愛おしさを憶えた。
「とか言って、顔はしっかり赤いのな」
「うるさいやぁ、もう…」
むぅ、と頬を膨らませ、りんご飴をかじろうとして静止した。
…はじめちゃんが、食べたところ。
「食べねぇの?」
明日晴れる?、みたいな口調で…日常の会話みたいなテンション。
ねぇ、はじめちゃん、ここは照れないの?
私、メチャクチャ恥ずかしいんだけど。
こういうの、“間接キス”っていうんだよ。知ってる?
「…食べるもん」
「…あ、そっ…か…」
「え、今気づいたの⁉︎って、わぁ、赤すぎ!」
なんてこった、やっぱ及川の言うことなんて聞くべきじゃないな、なんてぶつぶつ愚痴る岩泉。
美心はそれを眺め、やっぱりそうか、と納得した。
間接キスなんてどうりではじめちゃんらしくないと思った。
それでも、今回ばかりはあの及川に感謝した美心であったが。