第14章 夏休み合宿~五日目~。
【赤葦 side】
黒尾さんに抱きしめられる朱里さん。泣き疲れたからか、いつの間にかすぅすぅと寝息をたてていた。
「黒尾さん、あの…」
「大丈夫。部屋まで運んでおくから」
「サーセン、お願いします」
明日が最後だから早く寝るように黒尾さんは言った。そして朱里さんを抱えて体育館を後にした。
残された俺と月島。どちらからともなく歩き出し、部屋に向かった。
「じゃあ、月島も早く寝ろよ」
「…おやすみなさい」
「おやすみ」
短くそれだけ交わし別々の方向に向かった。
部屋に戻ると、全員寝付いた後だった。俺の布団を見ると、木兎さんの右足が思いっきりはみ出していた。心の中で軽く舌打ちをして、足を布団に戻してやる。
「わっはっは…おれぁえぇすぅ…んがっ」
意味不明な寝言を叫ぶ木兎さんに呆れつつ、俺も布団に潜った。真夏の夜なのに、なんだか空気はひんやりしているようだった。
寝ようと目を閉じるも、浮かぶのは朱里さんのことばかり。
泣いてたな…
こぼれる涙は真珠のようで、嗚咽すら可愛かった。こんなことを思う俺は重症だな、と自嘲気味に嗤(わら)った。
思えば、こんなに人を好きになるのは初めてだ。今までにも数人と付き合ったことはある。でも、だいたい長続きしなかった。女の方からコクってきたくせに、最後にはごめんなさい、他に好きな人が出来たの、だと。
今までのどんな人とも違う。そう思う何かが朱里さんにはあった。
明日になったらもう一度話そう
自分の想いを、伝えよう
フラれるか、OKされるか
そんなことはその時に考えれば良い
合宿最後の一日ぐらい、楽しく過ごしたいじゃないか。俺にはあと一日と無いんだ。少し位あがいてみたっていいじゃないか。
木兎さんのいびきがうるさいと思いつつ、いつの間にか俺は眠りに就いていた。
【赤葦 side Fin.】