第11章 夏休み合宿~二日目~。
「ごはーんハハーン、ごはーんハハーン」
朝ご飯の匂いがふわふわと漂う廊下を、翔ちゃんがやけに元気に歩いていた。
『おっはよ、翔ちゃん』
「アカリオハヨー!」
ニカッと太陽みたいに笑う翔ちゃん。昨日の長距離移動の辛さも、練習の疲れも、朝の気だるい眠気とも無縁みたい。
ニヤニヤと弛んだ口許は、きっと朝ご飯の献立でも思い浮かべているからかな。単純…←
「日向はなんでメシの前からボール持ってるんだ?」
『あ、リエーフ、研磨おはよ』
朝の挨拶もすっ飛ばして後ろから掛かった声の持ち主は、リエーフだった。その隣にいる研磨は寝起きなのか、眠そうな目をゴシゴシとこすっている。
「おはよーリエーフ、研磨。これね、おれはまだへたくそだからさ、もっとボールに慣れなきゃだから一日中持ってろって司令」
「持ってるだけで上手くなるのか?」
興味津々といった様子で訊いたリエーフを見上げて、研磨がぽつりと呟いた。
「気になるならリエーフもやれば」
リエーフは彫りの深い顔をあからさまにしかめてみせた。
「ヤですよ。ずっと持ってるとかめちゃくちゃ邪魔くさいじゃないですか!」
「初心者のくせに生意気」
ため息と共に言った研磨を、翔ちゃんが可笑しそうに笑った。
「リエーフといると研磨も先輩っぽいな!」
『そうかもね』
つられて私も笑った。すると、翔ちゃんは思い出したように付け加えた。
「あ、そうだ。研磨さ、朝メシ終わったらちょっとトス上げてくれよ!」
「やだ」
はい、研磨即答。
「えー、一本でいいから」
「…めんどうくさい」
ぶーぶー言う翔ちゃんの後ろから、リエーフも口を挟んだ。
「ていうか一本打ったって意味ないだろ?」
「だーかーらー、一本ってのは……まずは一本っていうか!」
翔ちゃんは振り向いて言い返した。
「なんだ、日向は嘘つきなのか」
「チーガーウー!!」
それぞれに相手を見上げて見下ろしながら、バレー選手離れした短躯の翔ちゃんと、1年生離れした長躯のリエーフが朝の廊下を騒いで歩く。
「ふたりともうるさい…」
両サイドをうるさいのに挟まれた研磨は、面倒くさそうに呟いた。
そして、私たちは幸せな匂いと朝の光に満ちた学食の扉を開けた。
「ごっはーん!」
「メシだメシ!」
「…眠い」
『いただきまーす♪』