第5章 日常②。
『ちょっと影山くん、なにいってるのっ///』
「うるせー!」
そう言うと影山くんは私の腕を自分の方にグイッと引っ張り耳元で私にだけ聞こえるように囁いた。
「そういうことにしといた方が、及川さんから早く逃げられるだろーが!」
『あ、そっか』
なるほど、納得。つまり付き合っているフリだけしておこうってことか。
「やっぱり付き合ってるんじゃーん!」
「ウス…」
「お前、そうだったのかよ!」
『そ、そうなんですよね~』
ばっしばっしと徹さんが影山くんの背中を叩いている。岩泉さんにすごく驚かれたけど、普通びっくりするよね。というか反応に困るんだよね、嘘だし。なんとか苦笑いでごまかすと、影山くんが徹さんたちに一礼した。
「じゃあ、これからデートなんで」
『しっ、失礼します///』
「楽しんできてね~♪」
私は"デート"という言葉をサラリと言ってのけた影山くんに内心動揺した。影山くんは行くぞ、とぶっきらぼうに言って、私の右手を取って歩き出した。
駅の中に入って後ろを振り向くと、ハミマの前には徹さんたちの姿はなかった。ここまで来たらもういいかな。
『影山くん、もういいよ』
「なにがだよ?」
『その…手……』
「あ?」
『だから、手!』
「ああ…悪い…///」
影山くんは、慌てたように私の右手をパッと離した。右手には影山くんの体温がほんのりと残っていて、なんだかドキドキした。
「行く場所は決まってんのか?」
『うん。5階のスポーツ用品店』
「ならエレベーターのがいいな」
『うん』
「ほら」
『うん?』
左手を手を伸ばしてきた影山くんに、私は首を傾げた。
「手!人多いからはぐれたら困るだろ」
『そっか、ありがと』
なんのためらいもなく掴んだその手は、私のよりも全然大きくて、男子なんだって嫌でも意識してしまった。半歩先を行く影山くんの顔は、いつかのように耳まで赤かった。
私も人のこと言えないや。
だって、顔、ちょっと熱い。