第2章 チャリキ
「はぁ………」
私、さちこは、人生という荒波をどう乗り越えようか考えていた。
私には悩みがある、それは……
「チャリキ…」
実の自転車を、好きになってしまったことだ。
わたしが小学5年生の頃、我が家にやってきた捨てチャリが、このチャリキだった。捨てチャリとは言え新品同然の車体に、オレンジ色の核。幼いながらにはしゃいだ私は、彼を中1の今の今まで大切に扱ってきた。
ところがある日…信じられないかもしれないけれど、喋った。チャリキが、喋ったのだ。
目鼻口みたいな何かがなぜか核に塗装されているなぁ、と思っていた。
自転車にも喋るという概念があったんだね…
「ゴシュジン、呼びました?」
「ハッ!!ごめんごめん、独り言!」
「独り言で私の名前を…?嬉しいな……」
「や、やめろーーっ!!」
核をウニャウニャしてはにかむチャリキのスーパーキシリトールスマイルフェイスに、私は顔を真っ赤にした。
この初恋、こいつにだけは知られてはならない……もし知られたら廃棄場に置き去りにしてやる…っ!
「あの、ゴシュジン」
「な、なんでしょう!」
「私、ゴシュジンのこと好きですよ…ロードバイクみたいにすらっとしてて、誰よりも素敵です。一緒にスーパーの黒糖バターロールを焼いて食べたいくらいに」
「は、はわわ………」
……………やっぱり、置き去りにするのは…やめておこっかな。
〜end〜