第2章 別れ
明治十一年五月十四日。
大久保さんが神谷道場に来てから一週間が過ぎた。
そして返事の答えを聞きにもう一度大久保さんが来る。
緋村さんは言うとこの一週間普段の生活と変わらない日々を過ごしている。
普段と変わらない緋村さんに私は安心していた。
だけど、薫さんや左之助さんは逆に不安のようだ。
洗濯をしている緋村さんの背後に左之助さんが近づき、その背中を蹴り上げる。
勢いに敗けて緋村さんは洗濯桶の中に落ちた。
「呑気に洗濯してる場合じゃねーだろ。どーすんだ、返事。まさかと思うがよ、大久保の話に乗る気じゃあねェだろうな」
私利私欲にまみれた政府の話は信用ならないと左之助さんは言う。
左之助さんは本当に政府を毛嫌いしているんだと改めて思う。
彼の過去を考えるとそうなってしまうのは当たり前なのかもしれないけど。
「大久保卿が他の二流三流の維新志士同様、私利私欲で動いている様なら、斎藤が多分既に斬り伏せているでござるよ」
緋村さんは、斎藤さんが見も心も政府の密偵(イヌ)に成り下がったなら、闘う前に「正義」と言う言葉を口にはしない。
斎藤さんは今もなお壬生の狼のままだとそう言った。