第10章 はじまりのうた(吉野)
桐島紗友。
事務所の後輩。
いつも自信が無くて。
不安な気持ちが空回りに拍車を掛ける。
「桐島…飯食いに行くから付き合って。」
先輩の職権を濫用し、食事に誘った。
思ってることを全て吐き出させ、泣かせた…。
それから、いつも気に掛けるようになっていた。
「レギュラーが取れた」と聞いたときは、本当に嬉しかった。
「『好き』…なんかなぁ…」
「何!?よっちん!好きなコおるん?」
鈴村健一…
よりによって、何でコイツに聞かれたんだろう…。
「あー。まぁー…どうなんだろう。」
俺の前に仁王立ちになり腕を組み得意気な表情を見せる。
「ははは…俺は知っている。」
「桐島紗友!!」
「!?何で分かるんだよ!」
「あっはっは~。俺は何でも知っている。」
「面倒くせぇな…」
「えー?だってキラフェスに来とったし。」
「それが理由の一つやな(笑)」
ニヤニヤする顔が俺の心を逆撫でする。
手に持ったiPhoneをタップし、誰かに電話を掛けている。
人と話をしてる最中に普通電話するか?
「もしもーし。紗友?」
「!?」
「今日、夜空いとる?」
「じゃあ、いつもの店で。」
ニヤッと笑って、オレを見つめる。
「よっちんさー。今、ザワザワしてるやろ?」
「それって『好き』って事。」
「あのコ、結構狙ってるヤツ多いよ?」
「………。」
「可愛いし。」
「可愛くねーよ。」
「………ったく……。世話が掛かるなぁ。」
「とりあえず、今夜来ても良ぇよ?」
「行かねーし。」
明らかに不機嫌な声に自分でも驚いた。