第3章 sniper (岡本)
ハッと我に返る。
「ちょ!…さすがにマズい……!」
「紗友さん!かっきーさんじゃないです!」
その声に驚いて、紗友さんはオレから離れた。
「ごめんなさい!!」
瞳には、うっすら涙が滲んでいる。
「いやいや。大丈夫ですよ。」
「何て事しちゃったんだろう…本当にごめんなさい。」
「気にしないで下さいって。」
「ごめんなさい…ごめんなさい…。」
ふと気付く。
この人は、オレに謝ってるんじゃないんだ…。
ここにはいない最愛の人に謝ってるんだ。
口元に手を当て、何度も何度も謝る。
本当、完敗だなぁ。
付け入る隙すら無いよ。
「紗友さん?大丈夫ですよ。」
そっと頬に指を触れる。
ようやくオレのことを見てくれた。
瞬きをすると涙がこぼれた。
その涙を親指で拭いながら、囁くように耳元で呟く。
「誰にも言いません…。『二人だけの秘密』です。」
ニコッと笑うと紗友さんはホッとしたように微笑んでくれた。
自分の想いを抑えるのなんて…
簡単と思ってたのに。
難しいかもしれない…
END