第29章 strawberry(梶)
店内に入ると既に長蛇の列に気落ちする。
そんな私の前を歩く梶さんの背中をパタパタとヒールの低い靴で追い掛ける。
列の最後尾にいる品の良さそうな店員さんが、申し訳なさそうに私達を交互に見ながら声を掛けてくれた。
「1時間以上掛かりますが宜しいですか?」
その声に気分は急降下。
さすがに1時間以上なんて、待たせるわけにはいかない。
また次の機会にしましょう…。
そう声を掛けようと息を吸い込めば聞こえる予想外の言葉。
「構いません。」
その声に驚き、目を丸くしてしまう。
合った視線を外さずに梶さんはニッコリ笑う。
「食べたいんでしょう?」
その言葉に嬉しさで言葉も出ない。
期間限定で食べられるイチゴのパフェ。
毎年やっているものの、いつも機会を逃して悔しい思いをしていた。
その話を思い出してくれたのか、忙しい合間に梶さんが誘ってくれた。
「いいよ。ここなら寒く無いし。」
待つのは店内。
それでも待機場所は、沢山のお菓子が売られる場所。
しかも窓際となれば、外からも姿が確認できる。
不特定多数の人に目撃されるこの場所で私と一緒にいるのはリスクが高すぎる。
やっぱり…今回は諦めようかな…
そう思って顔を上げれば、微笑むような
温かい視線。
「そんな顔しないの。大丈夫だよ。」
何で梶さんは、私の思ってる事が分かるんだろう。
「安心して。」
欲しい言葉以上の言葉を掛けてくれるんだろう。