第22章 honey(宮野)
同じベッドに入り紗友の体温を感じること数分。
「あの…まだ帰らないの?」
「え?そんな冷たいこと言わないでよ…」
「紗友が眠ったら帰ろうと思ってるんだけど。」
「もう大丈夫だよ…」
「それに、マモちゃんがいるとドキドキしちゃって眠れない。」
グイグイと俺の胸を押す小さな手。
「だから。あんまり可愛い事言われると困るんだけど…」
「余計帰りたくない。」
何を言っても胸を押す手の力は変わらない。
「もう。そんなに押さないでよ。背中とお尻が寒い。」
「風邪引いちゃうかも…」
グスッと鼻をすすってみる。
「え!?」
焦る紗友。
「ごめん…今のは演技……一応声優なんで」
「もう!ヒドい!心配したのに!」
「ごめんごめん。でも怒れるくらい元気になったのなら、ひと安心。」
「本当は、もっと一緒に居たいけど…今日はそろそろお暇するよ。」
ベッドを抜け出し、背を向けながら鞄に手を入れお見舞いの品を探す。
「良平からのお見舞いの品だよ。」
「良平くん?」
「ハチミツ生姜のアメちゃん。」
封を開け、指でつまんで紗友の口元へ差し出す。
「ほら。あーん」
「え…自分で食べられる…」
右手を差し出し、俺の右手からアメを取ろうとする。
「だーめ。ほら。あーん?」
これは譲らないよ。絶対に!
視線で訴えれば諦めたのか、恥ずかしそうに口を開ける。
「もっと大きく開けないと食べられないよ?」
困ったような顔。
本当は、このまま押し倒したい気分だけどガマンガマン。
少し大きく開いた口へアメを放り込む。
「あ。美味しい。」
両手を頬につけて、嬉しそうにアメを味わう。
少しでも元気になった紗友の笑顔を見られて良かった。
良平。いい仕事するじゃん。
紗友から香る甘いハチミツの匂い。
その香りに誘われて、俺は再び紗友の傍へ。
「どうしたの?」
不思議そうに見つめる瞳。
ハチミツの甘い香りに誘われる俺はミツバチ。
「何か欲しいものがあったら、遠慮しないで言うんだよ?」
「うん…あのね…プリン食べたい…」
「了解。すぐに買ってくる。」
「え!今じゃなくていいのに…」
「寝ないで待っててね?」
ミツバチは、女王さまの元へ甘い蜜を運びますよ。
END