第21章 Frohe Weihnachten!(柿原)
再度、胸元に顔を埋めて背中にそっと手を伸ばす。
何度も聞こえる大きめの呼吸音。
「徹也さんの匂い…」
「えっ…加齢臭!?」
「もぅ……違いますよ…安心する香りです。」
「俺の匂い…何か恥ずかしいな。」
「大好きな匂いです。」
「徹也さん…眠くなってきちゃった…」
「寝てもいいよ?」
そっと背中をポンポンとたたく。
「おやすみなさ…あっ!寝ちゃダメ!」
「ん?」
「えっと…」
上目遣いで俺を見つめる瞳。
ゴホンと咳払いをして、深呼吸をする紗友。
ん?何?
何が起こるのかな?
「 ふろーえ う゛ぁいなはてん」
「………ん?」
「えっ!違う!?」
真っ赤になりながら、枕元のスマホを操作する。
「おかしいな…うーん。」
あたふたする紗友の背中越しにスマホの画面を覗き込む。
見慣れたドイツ語。
「あぁ。」
「紗友?こっち向いて?」
「はい?」
少し体を傾けて、こちらを覗う横顔に顔を近付ける。
「痛…っ…」
「大丈夫ですか?」
「ははは。かっこ悪いな。」
今度は、俺が咳払い。
「Frohe Weihnachten!」
一気にパァッと光をさしたように輝く。
「わざわざ勉強してくれたんだな。」
「これは分かるかな?」
「Egal was kommt, ich werde dich nie verlassen. 」
キョトンとする瞳に口元が緩む。
「日本語じゃ恥ずかしくて言えない言葉だよ。」
「えー?何ですか?」
「内緒。」
人差し指を立てて、「シー」と言えば口を尖らせる。
「さて、寝ようか。」
キスをせがむ視線。
「腰が痛くて、動けないんだよなー。」
「紗友がしてよ。」
「はい。どーぞ?」
恥ずかしそうに唇を寄せる。
ほのかに香るボディークリームが鼻腔を擽る。
これから先、『何があってもキミを離さないよ。』
END