第17章 kaleidoscope(津田)
先ほどまで覗いていた床に置いた万華鏡を差し出された。
「?」
「ちょっと見てみてください。」
想いを込めた視線に、『何か言いたいんだな』と感じ取り差し出された万華鏡を受け取る。
俺の胸元に背中を着けて、照明を指差す。
「光の方に向けて見てくださいね。」
言われた通り、片眼で覗き筒の底を照明へ向ける。
「万華鏡なんて、子供の頃以来だよ。」
「綺麗だな…」
クルクルと筒を回し、小さな世界に目を奪われる。
「知ってると思いますけど。」
「万華鏡の中の世界は二度と同じ景色は見えないんです。」
「この世界に広がるのは、『偶然』ばかり。」
「津田さん?」
「私、思うんです。」
「『運命』より『偶然』の方が貴重だと思うんです。」
「『運命』って、たとえ一度逃してもチャンスは何度も訪れる。」
「でも『偶然』は、一度しかない。儚いと思うんです。」
「だから、私はあの出会いは『偶然』だと思ってます。」
「あの出会いを逃したから、津田さんには会えてなかった。」
「こうして触れることも…」
全く…このコは…
大分年が離れてるけど、自分の意見をしっかり持ってる。
こういう所に惹かれたんだと思う。
「『偶然』か…」
「俺は、『偶然』でも『運命』でも紗友に出会えた事に感謝してる。」
「この出会いは、誰かに与えられたものなのか。」
「それとも、引き寄せたものなのか。」
「考えたって分からないけど、俺は『今』こうして共に過ごせる時間を愛おしく感じてるよ。」
前に座る紗友を強く抱き締め、耳元に口づける。
「一緒にいられる時間は少ないけど、一分一秒だって一緒にいたい。」
抱き締めた腕をとり、唇をつける紗友。
キミはなかなか言葉に出さないけど、視線や触れる唇からだってシグナルは伝わるんだ。
俺の気持ちも伝わってると良いけど…。
これからもキミだけを見てるよ。
END