第16章 線香花火(蒼井)
一瞬の事ですぐに理解できない。
今も触れ続ける柔らかく温かい感触。
瞬きどころか、呼吸をすることも忘れてしまう。
離れた唇。
スッと細く開いた瞳。
片方の口角が上がり、笑い声が聞こえる。
「ごめんね。我慢できなかった。」
「だって、紗友ちゃんが可愛くて。」
そう言われても、私の口はパクパクと開閉を繰り返すのみ。
「あはは。笑わせないでよ。」
「そうだ。紗友ちゃん?」
首の後ろに手を掛けられ、グッと力を込められる。
唇が触れるか触れないか。
そんな位置で話し掛ける。
「キスする時は、目を閉じるんだよ?」
そう言って、再び私の唇に触れた。