第4章 合宿の準備
旭先輩のその一言にドキリとした。
何気ない一言だったけれど、心の内を見透かされたような気がした。
同時に、所在なさげな私に気が付いてくれたことに嬉しさを覚えた。
そしてそんな私を気遣ってくれたことにも。
時間にしたらほんの数分だったと思う。
測っていたわけじゃないから、正確な時間は分からない。
けれどそのたった数分でも。
あの旭先輩と2人きりで帰宅する時と同じで、私にとってはとても大切な時間だった。
会話の内容なんてたわいないことで、特に劇的な何かが起こったわけではない。
けれど、この数分の積み重ねが、私と旭先輩との共有した時間として蓄積されていくのだと思うと、嬉しく思わずにはいられなかった。
「ごめん、急に呼び出しがあって。待たせちゃったね」
少し息をきらせた潔子先輩が現れて、旭先輩は「また部活で」と短く挨拶をしてその場を静かに離れていった。
大きな背中を名残惜しい目で見送っていたのが潔子先輩には分かったのだろう、「声かけるタイミング間違えちゃったね」と謝られてしまった。
「えっ、全然そんなこと無いです!」
「そう?…のわりには顔は残念そうだよ?」
「ええっ?!顔?!」
清水先輩の言葉に、思わず両手で自分の顔を触って確かめてしまう。
それがおかしかったのか、潔子先輩はふふっと笑う。
「ごめん。ちょっと意地悪言っちゃったかな」
全然意地悪そうに見えない笑顔でそう言うと、清水先輩は教室へ一緒に入るように促してくれた。
潔子先輩の前の席を借りて、机をひっつけてまずはお弁当を広げた。
「美咲ちゃんのお弁当、とっても美味しそう。彩りも綺麗だね」
「ありがとうございます」
「自分で作ってるの?」
「はい、うち親が家空けてることが多くて。必要に迫られて料理するようになりましたけど、今では好きでやってますね」
「そうなんだ。えらいね。じゃあ合宿、料理の腕、頼りにしてるね」
「ふふ、任せてください!」
和やかに会話をしながら昼食を済ませ、合宿のメニューについての相談を始めようとした時だった。
「俺も混ぜてもらっていいかな」
「澤村。どうしたの」
「ん?ちょっと興味があって」
「そう。別にいいけど」
「サンキュー」
潔子先輩のお許しをもらって、澤村先輩が私の隣の席にどっかりと腰かけた。